夜尿症(おねしょ)の原因について

夜尿症(おねしょ)の原因について

(マオメディカルクリニック 泌尿器科医長 別所 英治 監修)

夜尿症は子どもの成長にしたがって、脳や膀胱が発達し、大半が自然に治ると考えられています。今回は、夜尿症の症状や原因、膀胱の役割や排尿のメカニズムなどをご説明します。

夜尿症の定義と症状

一般的に乳幼児期の夜尿を「おねしょ」といいますが、日本夜尿症学会で夜尿症は「5歳以降で、1ヵ月に1回以上の夜尿が3ヵ月以上続くもの」「1週間に4日以上の夜尿を頻回、3日以下の夜尿を非頻回」と定義されています。また国際小児尿禁制学会による分類のひとつに、一次性夜尿症と二次性夜尿症があります。前者は幼い頃から継続して夜尿症が続いている場合で75~90%、後者は半年以上の間を空けて再発している場合で10~25%の頻度でみられるといわれています。二次性夜尿症は、両親の離婚や、弟または妹の誕生などによる生活上のストレスが関係している可能性があります。

夜尿症は夜寝ている間に無意識で排尿し、週1~2回以下と少ない場合や毎日のように起こる場合など、その頻度には個人差があります。夜尿症は脳の神経系や、尿を一時的にためておく膀胱が未発達のために起こるものと考えられます。個人差はありますが、夜尿症は自然に治るケースが少なくありません。夢の中で排尿している、夜尿をしてもすぐに目を覚ます場合などは、夜尿症が治る時期が近いといわれています。また昼間、トイレへ行く前に漏らしてしまう場合は昼間遺尿といい、膀胱にある程度の尿がたまったときに膀胱が突然収縮するため、膀胱の圧力が強くなり、我慢できずに漏らしてしまうと考えられます。

日本での代表的な分類のひとつとして、以下のような多尿型、膀胱型、混合型、正常型の4つがあります。

多尿型

膀胱の容量は正常で、夜間尿量が多いタイプです。夜間尿量の上限は、6~9歳の場合は200mL、10歳以上は250mLが目安とされます。

膀胱型

夜間尿量は正常で、膀胱の容量が少ないタイプです。自律神経のバランスが未発達のため、膀胱の容量が少なくなると考えられます。

混合型

多尿型と膀胱型の特徴をあわせもち、夜間尿量が多く、膀胱の容量も少ないタイプです。

正常型

上記3つのいずれにも該当せず、夜間尿量、膀胱の容量が年齢相応のタイプです。夜尿の程度が軽く、そのほとんどは夜尿の自立が近づいている状態だといわれています。

膀胱のはたらきと排尿の仕組み

尿は腎臓で血液をもとに作られています。全身の細胞に酸素や栄養素を運ぶだけでなく、老廃物などを腎臓に集める役割を担っています。血液が腎臓に入ると、腎臓の糸球体で老廃物や余分な水分などがろ過され、尿のもとになる原尿が作られます。尿の成分の90%以上は水分から成り、アンモニアや尿素などの老廃物なども含まれます。また尿は老廃物などを体外に排出するほか、体内の水分量を維持する、体内のナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質濃度を調整するなどのはたらきがあります。腎臓は余分な水分や老廃物を体外に排出することによって健康を維持しているため、尿量や色などによって全身の健康状態を知る手がかりになると考えられています。

排尿機能は、次のような尿を膀胱にためる「畜尿」と、膀胱から尿道を通り尿を排出する「排尿」の2つにわけられ、それぞれ神経や筋肉のはたらきによって調整されていると考えられます。

畜尿

尿を膀胱にためる畜尿時には、膀胱壁の伸展刺激が脊髄へ伝わり、大脳で尿意として認識されると考えられています。交感神経により膀胱の周りにある排尿筋が弛緩して広がることで尿が膀胱にたまりやすくなり、尿道にある内尿道括約筋などの骨盤底筋群が収縮し、尿が漏れないようになっているといわれています。骨盤底筋群が無意識下で締められているため、尿を漏らすことなく、膀胱に溜めておくことができると考えられています。

排尿

排尿の意識が高まると、大脳から排尿の命令が脊髄を経由して伝わり、副交感神経がはたらくことで排尿筋が収縮して圧力がかかり、内尿道括約筋が弛緩することによって尿が排泄されます。また外尿道括約筋は意識的に収縮させ、排尿を一時的に中断させることができると考えられています。

夜尿症の原因

国際小児尿禁制学会によると、夜尿症の原因は主に以下の3つが考えられます。

夜間尿量が多い

夜寝ている間は抗利尿ホルモンの分泌が増加することにより、尿量を減らし、昼間の60%程度まで尿量が減少することが知られています。夜間多尿の場合、抗利尿ホルモンの分泌低下により夜間に作られる尿量が増えている可能性があります。また夜間の尿中へのカルシウム排泄の増加、過剰な水分や塩分摂取も関係しているといわれています。

排尿筋の過活動

膀胱の周りにある排尿筋の収縮する頻度が増えることで、夜尿が生じると考えられています。睡眠中に排尿筋の収縮が起きた場合でも、内尿道括約筋などの骨盤底筋群が活発にはたらくことで覚醒して排尿できると考えられますが、骨盤底筋群が不活発となることで夜尿が起きるといわれています。

睡眠深度が深い

通常、子どもの睡眠は深く長いことが特徴とされ、子どもは睡眠が深いために尿意がある場合でも目を覚ますことができず、夜尿症が起きているといわれています。しかし現状で睡眠の深さが夜尿症に関係しているかどうかは結論が出ていません。夜尿症の場合、起こしても目を覚ましづらいことがある一方、週に5日以上の夜尿がみられる場合には大脳皮質の覚醒があっても起きられず、浅い睡眠であるという報告もあります。

夜間尿量が増加するのは先天性腎尿路異常や糖尿病、膀胱の容量が少ないのは膀胱疾患や高カルシウム尿症、その他、てんかんや睡眠時無呼吸症候群なども夜尿症を引き起こす可能性があります。また遺伝的要因としては両親のどちらかに夜尿症の既往歴がある場合、そうでない場合と比較して5~7倍高く、両親ともに既往歴がある場合には約11倍夜尿症を引き起こしやすいという報告もあります。また、両親との関係、妹や弟が産まれたことによる心因性のもので夜尿症になる場合もあります。

夜尿症の経過

一般的に、夜尿症は5~6歳で20%程度、小学校低学年で10%程度、10歳以上でも5%程度みられ、成人になっても夜尿症が治らないケースもあります。夜尿症は命に関わる症状ではないため、病院やクリニックを受診せずに子どもの成長に伴って自然軽快する場合もあり、初診の時期が遅れることも考えられます。その理由として、遺伝的要因があることから両親が経過観察をしていること、日本人の場合には夜尿症を恥ずかしい、知られたくないなど、恥じらいの気持ちをもっているという理由が考えられます。生活指導などの治療により、自然経過に比べ、治癒率が2~3倍高くなり、1年後の治癒率は治療しない場合には10~15%、治療した場合は約50%が治癒するという報告があります。夜尿症に伴う精神的なストレスが夜尿症を長引かせることがあり、夜尿による自信の喪失によって心理面や生活面にさまざまな影響を及ぼす可能性があるため、子どもの成長をそばで見守り、適切な対応をすることが望ましいでしょう。

夜尿症はさまざまな原因が考えられる

夜尿症は、夜間尿量の増加、膀胱の過活動のほか、遺伝的要因や心理的ストレスなども関与していると考えられます。当院は泌尿器科、心療内科・精神科を併設しているため、あらゆる側面からの診察が可能です。お気軽にご相談ください。