かゆみ、皮脂欠乏症(ひしけつぼうしょう)の原因と治療法

皮脂欠乏症(ひしけつぼうしょう)の原因と治療法

(監修:マオメディカルクリニック 皮膚科医 野村尚志)

冬は乾燥した空気によって肌が乾燥しやすく、かゆみが生じる場合があります。今回は皮脂欠乏症の治療法や、日常生活における注意点をご説明します。

皮脂欠乏症とは

皮脂欠乏症とは皮膚表面にある皮脂が減少することによって、角層の水分が少なくなり、肌が乾燥している状態のことをいいます。角質が厚くなって剥がれかけている状態、鱗屑(りんせつ)や皮膚表面のざらつきがみられ、ひび割れによって痛みを伴う場合もあります。皮脂欠乏症は徐々に進行し、かゆみが生じて皮膚をかくことで悪化を招き、皮脂欠乏性湿疹につながる可能性があります。皮脂の分泌が低下しているご高齢の方に多くみられる傾向にあります。アトピー性皮膚炎の方にも生じやすく、石けんの使い過ぎ、過度に手や体を洗うことなどによって悪化する可能性があります。

皮膚のバリア機能

皮膚は温覚や冷覚、触覚などの知覚機能、発汗や立毛筋の収縮などによる体温調節機能などさまざまな役割を担っています。中でも皮膚のバリア機能は重要で、外部からの細菌や紫外線などの刺激から皮膚を守り、水分の蒸発を防いでいます。 皮膚は、外側から順に表皮・真皮・皮下組織からなり、さらに表皮は角層・顆粒層・有棘層、基底層から成っています。皮膚の最上部である角層にはバリア機能があり、正常な皮膚には角層に約20~30%の水分が含まれていると考えられています。バリア機能で重要な役割を果たすものは主に以下の3つといわれています。

皮脂

皮脂は皮脂腺から分泌される脂質で、皮膚の表面で汗腺から分泌された汗などと混ざり合い、皮膚の表面を保護する弱酸性の皮脂膜を形成します。適度な皮脂膜は肌に潤いを与え、肌触りをなめらかにします。皮脂が少ない場合には肌が乾燥してバリア機能が損なわれます。

角質細胞間脂質

角質細胞同志のすき間を埋める脂質で、セラミドやコレステロール、脂肪酸を主な成分とし、層状構造を形成しています。層状構造の形成には主成分であるセラミドなどの構成比が重要とされ、比率の偏りが構造の変化を招き、バリア機能が低下する原因となります。外部からの細菌などの侵入を防ぎ、水分が必要以上に蒸発するのを防ぐ役割を持っています。

天然保湿因子

天然保湿因子の約半分はアミノ酸等から構成され、角質細胞内のケラチン繊維の中で水分を保持するはたらきがあると考えられています。ケラチン繊維などのタンパク質が外からの刺激などで劣化したり、天然保湿因子が減少することで乾燥肌を誘発されると考えられています。

皮膚がかゆくなる原因

肌にかゆみを引き起こすメカニズムはまだはっきりとわかっていませんが、主に以下のような要因が考えられます。

保湿因子の減少、バリア機能の低下

正常な皮膚では、皮脂・角質細胞間脂質・天然保湿因子等が皮膚の水分量を一定に保つ役割を担っています。これらの水分を保つ要素が不足することで角層の水分量が減少すると皮膚が乾燥します。皮膚のバリア機能も同時に低下し外部からの刺激を受けやすく、かゆみを引き起こすことがあります。

ヒスタミンの作用

温度変化などの刺激により、皮膚の肥満細胞からヒスタミンが分泌され、かゆみを引き起こすといわれています。ヒスタミンが皮膚のかゆみの受容体に結合し、神経を介して脳に信号が伝えられることでかゆみが認識されると考えられています。また神経から放出された神経ペプチドという神経伝達物質がさらに肥満細胞を刺激し、ヒスタミンの分泌がより促進されて、かゆみが増していくといわれています。

皮脂欠乏症の治療

皮脂欠乏症の治療では、保湿剤の塗布などの薬物治療が行われます。夏はサラサラとしたローション、冬は高保湿の軟膏やクリームなど、使い分けをする場合があります。皮膚の炎症がみられ湿疹等が生じている場合には、主に以下のような薬が処方されます。

ステロイド薬

抗炎症作用や血管収縮作用などにより、皮膚の炎症・かゆみなどを和らげる作用を持ちます。作用の強さによって5段階にわけられ、年齢や症状の程度などに応じて使い分けを行います。副作用として、皮膚の色素脱失が生じたり、皮膚が薄くなり血管が浮き出てみえることがあります。医師や薬剤師の指示の下、用法・用量を守って使用するようにしましょう。

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬は、かゆみの発症原因のひとつともいわれるヒスタミンの放出を抑制し、かゆみを改善すると考えられています。主な副作用として、眠気やのどの渇き、便秘、吐き気などがみられることがあります。医師や薬剤師の指示の下、用法・用量を守って使用するようにしましょう。

日常生活での注意点

日常生活で注意すべき点として、主に以下のようなものが考えられます。

入浴はぬるま湯に短時間浸かる

熱いお湯へ長時間入浴することで、皮脂が失われます。38~40℃程度のぬるま湯に15分程度つかると良いでしょう。ナイロンタオルの使用は肌への過度な刺激となり、皮膚のバリア機能の低下を招きます。その結果、かゆみや乾燥が生じます。体を洗う際は、綿やシルクなどの天然素材のタオル、または手で優しく洗うのが望ましいでしょう。

水分を優しく拭いて保湿する

入浴後は体から水分が蒸発しやすいため、できれば5分以内に保湿をして水分を逃がさないようにしましょう。

刺激物は控えめにする

香辛料やアルコール、カフェインなどは血行促進、過剰な汗や皮脂分泌等を招き、肌のかゆみを誘発する場合があります。過度な摂取を控え、適度な量を心がけましょう。

室内の環境を整備する

エアコンやファンヒーターを使用することにより、室内は乾燥しやすくなります。加湿器で湿度を50~60%程度に設定する、バスタオルなどの洗濯物を干すなど、室内の湿度を保つようにしましょう。

衣類は低刺激のものを選ぶ

ポリエステルやナイロンなどの化学繊維の衣類は皮膚への刺激になり、かゆみを招くことがあります。木綿などの天然素材の生地は比較的刺激が少ないため、肌に直接触れる肌着は木綿などの天然素材が良いでしょう。

汗をふく

汗を拭かずに放置すると、汗の成分がかゆみを引き起こすことがあります。汗をかいたら、タオルや汗拭きシートなどで拭くようにしましょう。

皮膚の乾燥や刺激を避け、皮脂欠乏症を予防しよう

皮脂欠乏症は肌のバリア機能の低下などによって発症します。気になる症状がみられる場合は、当院へお気軽にご相談ください。